BricsCAD開発戦略責任者が語る、「なぜ互換性が高いだけでは優れたCAD製品にならないのか」

開発戦略責任者インタビュー

今、AutoCADの互換性をアピールする「.dwg互換CAD」が市場シェアを伸ばしている。しかし設計者の多くは、「AutoCADではなく、なぜ.dwg互換のBricsCADを選ぶ必要があるのか」と思うであろう。AutoCADは業界標準であり、何十年も前から存在しているのに対し、BricsCADは2003年に市場参入した新参者ともいえるからだ。製図、設計、エンジニアリングにどのCADプラットフォームが正しい選択であるか? 互換性が高いだけでよいのか? 最近議論が活発であるため、約30年間CADに携わる経験豊富な専門家に話を聞いた。

(こちらの記事はモノづくりスペシャリストのための情報ポータルmonoistに2021年7月30日に掲載された記事を転載しています。)

 Don Strimbu(ドン・ストリンブ)は、Bricsysが開発するCAD製品の「BricsCAD Pro」および「BricsCAD Lite」ブランドのプロダクトオーナーである。1982年に「AutoCAD(バージョン1.25a)」を初めて使って以来、AutoCADのユーザーとなったドンは、1988年にオートデスクに入社し、2014年までさまざまな役割を果たしながら、長いキャリアを積み上げた。
 

 2017年にBricsysの創設者であるErik de Keyser(エリック・デ・カイザー)からの強い誘いを受け、Bricsysに入社。今日、彼はBricsCADの開発戦略・企画を担当している。2つのCADを知り尽くしているドンに、企業にとってなぜBricsCADが正しい選択といえるのかを尋ねた。

BricsysでBricsCADブランドのプロダクトオーナーを務めるDon Strimbu
BricsysでBricsCADブランドのプロダクトオーナーを務めるDon Strimbu

特定のCADに縛られない設計環境を提供するODAとの連携

 Bricsysは.dwg形式に対して最高レベルの互換性を提供することを目的に立ち上げられたコンソーシアムOpen Design Alliance(以下、ODA)との強力な関係を築いている。
 

 「BricsysはODAの創設メンバーです。何百ものODAメンバー企業が.dwgファイルに対応した何千ものアプリケーション製品を開発しており、コンソーシアムに貢献できることを誇りに思います。競合他社であっても共に協力することで、全ての人にとってより有益な製品を開発できると信じています」。
 

 重要なCADデータへいつでもアクセスできるようにするというODAの長年にわたる取り組みをサポートしていることもあり、図面の互換性はBricsysの開発チームにとって常に最優先事項である。図面ファイル内に保存されている設計データは、“使用するCAD”に縛られるものではなく、それを設計した会社の所有物であるべきだ、とドンは強調する。
 

 「特定のCADでしか読み書きできないファイル形式で設計データを保存することはリスクになり得ます。ODAはこの状況を打破するために立ち上げられました。使用するCADを変更しても.dwgに保存されている設計データに常にアクセスできるよう連携して取り組んでいます」。
 

 独自ファイル形式の互換性を追求するODAとの提携によって、BricsCADはより優れたパフォーマンス、より優れた機能、より高性能なワークフローの実現に向けた開発に注力している。

Open Design Allianceと協力
Open Design Allianceと協力

互換性だけでは優れたCAD製品にならない

 「AutoCADは優れたソフトウェア製品であり、オートデスクは業界のリーダーです。オートデスクとその社員、そして彼らのリーダーシップに敬意を表します。何十年にもわたって達成してきたことは素晴らしく、私はオートデスクで勤務している期間、その成長に関われたことを誇りに思います」。
 

 この考え方は、Bricsysの創設者であるエリック・デ・カイザーも同じであったという。
 

 「エリックは『AutoCADユーザーが世界中に1200万人いることは紛れもない素晴らしい実績である』とよく言いました。だからこそ、チームは常にBricsCADがAutoCADとの互換性を高めることを目指していました」。
 

 しかし、互換性は常に重要だが、互換性だけでは優れたCAD製品にはならないとドンは考えていた。
 

 「AutoCADを完全にコピーすることだけを目的とした場合、AutoCADのクローンと見なされるだけで、私たちは誇りを持って仕事を続けることは難しいでしょう。
 

 BricsCADの開発チームは、AutoCADによって築き上げられた業界標準(図面ファイル形式、コマンド名、スクリプト、サポートファイル形式、LISP)を活用し、素晴らしい仕事をしていると自負しています。この結果、現在のCADユーザーがBricsCADに簡単に移行することができるのです」。

BricsCADのインタフェースイメージ
BricsCADのインタフェースイメージ

BricsCADの目指す唯一無二の「ワンプラットフォーム」戦略

 BricsCADのコンセプトで中軸となるのが「ワンプラットフォーム」戦略である。Bricsysの開発チームは、2D作図、3Dモデリング、BIM、メカ設計などの複数のワークフローを単一のプラットフォームで提供している。これが、BricsCADが他のCADとは異なるといえる最大の理由だとドンは語る。
 

 「Bricsysでは、企画・計画設計から詳細設計やドキュメント作成までの最初から最後までの一連の設計ワークフローを実現するCAD製品を提供しており、『BricsCAD Ultimate』は、全てを.dwgで設計できるオールインワン製品です」。
 

 設計会社やエンジニアリング会社の全てのプロセスに1つのプラットフォームで対応できることは、業界でも唯一無二に等しい存在だという。ドンとBricsysチームは、ODAとともに.dwgで真のコラボレーションワークフローを提供できるという強い信念を持って「ワンプラットフォーム」を推進している。
 

 「.dwg以外にも特定ベンダーによって作られた多くの業界標準のファイル形式があります。また、オートデスクやデベロッパーが開発するサードパーティーアプリケーションを連携するために『オブジェクトイネーブラー』が必要な場合もあります。Bricsysは、ODAと協力することで、BricsCADでこれらのファイルを正しく、かつ、効率的に読み込み、書き出しをできるようにしています」。
 

 「オープンスタンダードへの信念を持って、IFC(Industry Foundation Classes:BIMの中間ファイル形式)開発者であるbuildingSMARTのメンバーになり、BIM設計の相互運用性をサポートすべくBIMデータ連携に取り組んでいます。また、互換性のあるAPIを提供しているため、400人を超えるデベロッパーが強力なアプリケーションプログラムを開発しています」。

さまざまなファイル形式の読み書きが可能
さまざまなファイル形式の読み書きが可能

AIを活用してCADデータを最適化

 Bricsysチームは、ファイル互換性だけではなく、コラボレーションワークフローを実現することを大切にしている。また、BricsCADユーザーがより効率的に設計できるような機能を追求している。
 

 「BricsCADは、ユーザーの効率化を実現できるような独自の機能を提供しています。BricsCADのユーザーインタフェース上には、従来のCADにはないコマンドもあります。これらのコマンドとワークフローの多くは、われわれの人工知能(AI)と機械学習チームによって開発されているものです」。
 

 簡略化、最適化、ガイドコピーは、BricsCAD固有のコマンドの例である。これらのコマンドは、AIを活用して、最小限のユーザー入力から最大のパフォーマンスを得るためにCADデータを最適化している。
 

 「『簡略化』コマンドの利便性をご理解いただくために、例えば、図面上にパフォーマンスを遅くするポリラインがあるとしましょう。そのポリラインは何十万という頂点を含んでいますが、多くの場合、ポリラインには必要以上に頂点が含まれています。そこで、この簡略化コマンドを使うことで、頂点の間引きを適切に行うことができるのです。頂点の数を減らすことができれば、その分ファイルサイズが削減でき、その結果、処理速度が上がります。既存のソフトウェアでこれを実現できるものは他にないと、われわれは自負しています」。

簡略化コマンド
簡略化コマンド

ユーザーのリクエストから生まれる新機能

 BricsCADの開発は、ユーザーのフィードバックを取り入れながら、複数年にわたる製品開発ロードマップに沿って進められている。
 

 「私たちのロードマップでは、さまざまな開発要件を実際に開発可能なルーティンにブレークダウンします。これにより、私たちだけではなくユーザーのためにも効率的な方法で開発を進めて製品を提供することができます。BricsCADの新機能のほとんどは、サポートチームに送られたユーザーからのリクエストから派生しており、開発チームは優先順位を付けて対応しています」。
 

 Bricsysはお客さま中心の企業であり、今後もそうあり続けることは明確であろう。
 

 「ユーザーがいなければ、われわれが存在する理由はありません」とドンは言う。「ユーザーから求められる機能とイノベーションとのバランスを常に取り続けているので、ユーザーの意見は私たちの成功のカギを握っています。ユーザーの意見を取り入れながら、業務プロセスを成し遂げるためのより良い方法を調査し、実装しています。それがソフトウェア会社を経営するための最良の方法であると私たちは信じています」。

日本市場に最高のCAD製品とサポートを提供

 「Bricsysはこれからも日本のユーザーの皆さまの声に応えていきたいと考えています。
 

 今後も日本の国内代表代理店である図研アルファテックとともに最高のCAD製品とサポートを日本市場に提供して参ります」。
 

 BricsCADであれば、今までにない、最高の満足感を得ることができそうだ。設計、エンジニアリング、建築・建設に関わる全ての人に、BricsCADが提供できることをぜひ体験いただきたい。

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